2022年本屋大賞ノミネートの「六人の嘘つきな大学生」を書いた浅倉秋成さんが2作目に書いた長編小説。2013年3月発表で文庫版は2021年4月23日に発売。
「六人の嘘つきな大学生」ですっかり浅倉秋成さんのファンになってしまった僕なのだが、今回も期待通り著者の緻密な伏線回収に感嘆を禁じえなかった。
今回の作品は普段ミステリー小説を読んでいる僕には新鮮で、なおかつ著者と同い年ということも相まって作中のアニメネタもドストライクだった。
ぜひ紹介したい本の1冊となったので簡単に紹介していく。
※ネタバレは基本的にありませんが、中盤までの内容にざっくり触れています。
フラッガーの方程式

”鮮やかすぎる伏線回収!気鋭ミステリ作家の技巧が光る、笑いと涙の青春小説”
KADOKAWA
「物語の主人公になって、劇的な人生を送りませんか?」
平凡な高校生・涼一は、日常をドラマに変える《フラッガーシステム》のモニターになる。
意中の同級生佐藤さんと仲良くなりたかっただけなのに、生活は激変!
ツンデレお嬢様とのラブコメ展開、さらには魔術師になって悪の組織と対決!?
佐藤さんとのロマンスはどこへやら、システムは「ある意味」感動的な結末へと暴走をはじめる!
伏線がたぐり寄せる奇跡の青春ストーリー。
はじめに言っておくと、この小説は「アニメ・漫画好き」には特におすすめだ。
あらすじを見ていただくとわかる通り、コメディ要素を多分に含んでおり文章もスラスラ読めるので
読書にあまり馴染みのない人でも十二分に楽しめる。
フラッガーシステムとは?

「フラッガーシステム」とは『誰もが現実において物語の主人公になれるシステム』で、システムに設定された対象者の発言や行動から「フラグ」を作り出し、電波によって周りの人の思考を操ってドラマチックな物語を半ば強制的に進めていくシステム。
フラグとは、ある種のお決まり的な成り行きを示唆する伏線みたいな描写である。
「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ…」←死ぬ
「こんなところに居られるか!俺は一人で寝るぞ」←殺される
「お前のデータはすべて把握済みだ」←上回られる
「遅刻ちこく~」←曲がり角でぶつかる
「あんなヤツ!全然タイプなんかじゃない」←付き合う
この「フラグ」を利用し、望むような展開から逆算してキッカケになるような言葉をつぶやいたり行動したりすれば、理想の物語を紡げるということだ。
物語の進め方は300近い深夜アニメのシナリオをもとにAIが判断(システム製作者が重度のアニメオタク)。
演出の強度や期限が設定可能だ。
しかし、一度期限を決めたら途中終了はできない。
高校生の東條涼一は「帰宅部」で「交友関係が狭く」「ツッコミ気質」それでいて「名前がまあまあカッコいい」という理由から『地域において最も深夜アニメの主人公っぽい高校生』と判断され、突然現れた謎の組織から1ヶ月間『フラッガーシステム』のモニターを頼まれることとなる。
主人公は淡い恋心を寄せているクラスメイトの佐藤さんとお近づきになれるかも、という下心からモニターになることを承諾する。
軽い気持ちで引き受けたモニターだったが、主人公となった東條涼一は思いがけないストーリーに巻き込まれていく。
乱立するフラグ
フラッガーシステム稼働初日。
突如として主人公の両親がアフリカへ単身赴任へと旅立つ。
物語を円滑に進めるために、フラッガーシステムが父が勤務する会社の人事を操ったのだろう。
確かにアニメなんかじゃ両親家を空けがちだけども 笑
死別とかじゃなくてよかった。
唐突な一人暮らしのはじまり驚きながらも学校へ行こうとする涼一は、システムが用意した「撒き餌」に遭遇する。
「どいてどいて~」とブレーキの壊れた自転車で突進してくる女の子。
道路でうずくまってポロポロ泣く少女。
これらを不審に思う涼一は「下手にフラグを立てると思いを寄せる同級生佐藤さんへの障害になる」と判断しガン無視。
曲がり角での「ごっつんこ」を回避したり「魔術研究会」や「おっぱい研究会」の部員募集をスルーして教室へ向かうと、クラスの男子生徒のほとんどが「はしか」で休みとなっていた。
生き残っているのは涼一と、友人の笹川だけ。
笹川は「ちょっとエッチで情報通の憎めない親友キャラ」として一応存在を許され、それ以外の男子たちは物語から排除されていた。
辟易としたまま1日が終わり家に帰ると、門の前に一人の少女が。
小柄でダッフルコートをに身を包み「ここから先はクリムゾンバッジがないと通れません」と言わんばかりに家の門をふさいでいる。
名前はソラ。

17歳の家出少女で「へへへへ」と可愛く笑う風俗嬢。
アフリカへ向かう両親と空港で意気投合し、東條家での同居を進められたとのこと。
涼一のことを「お兄ちゃん」と呼ぶソラは確実にフラッガーシステムの撒き餌なのだが、寒空のなか放っておけず渋々同居を承諾するのであった。
このあとも縦ロールのお嬢様生徒会長に「政略結婚を避けるために彼氏のフリをしてほしい」と頼まれたり、魔術研究会に無理やり入らされて敵対組織と戦ったりと、1つのストーリーの中で別作品かのような展開が繰り広げられる。

鮮やかな伏線回収
回避できなかったいくつかのフラグは、それぞれサブヒロイン的キャラクターとの交流につながっていく。
課題の解決に向かいながら、涼一へと好意を寄せるようになる女の子たち。
告白されドキッとするも、一途に佐藤さんへの物語を目指すために断る主人公をみていると、シミュレーションゲームをしているような感覚にもなった。
「ここでこのヒロインを選んだらこのルートで進んでしまう…いや、俺はトゥルーエンドへ向かうんだ!」
と、個人的にはシュタゲを思い出した。
フラグを折りつつ諦めずに佐藤さんとお近づきになりたいと願い続ける涼一。
おきまりの勉強会やプール回なんかもありながら、徐々に佐藤さんと仲良くなっていく。
そんな甘酸っぱい青春パート真っ只中、決して立ってはいけないあの「お手軽感動フラグ」が立ってしまうのだが……。
ここからは実際に手に取って確かめてほしい。
ラストに待ち受けるのは鮮やかなフラグ回収の数々!
あれも、これも、あんなものまでぜーんぶ伏線!
作中に散りばめられたネタに笑いながらラブコメや異能バトルのようなパートを読み進め、最後は怒涛の伏線が感動のラストへ向かって収束していく!
長くなりましたが
ああ、結局主人公ってこんな感じなんだよな…最高ゥ!アニメ化はよ!
と思わせてくれる作品でした。2022年暫定1位!