実話なので謎に筆がノるシリーズ第2弾。
例によって学びは一切ありません。
「学びたい」という向上心を持つことは大事ですが、人は上ばかり見ていても疲れてしまうもの。
この記事を読めば、何故だか自然と安心感や自信が湧いてくることでしょう。
今回もとあるパワー系企業の採用担当をしている僕が、実際に出会ってきた特徴的な人材のエピソードを紹介します。
泡沫の元自衛隊 Tくん
「こんどこそアタリだ!」そう思った。
地方に住む28歳から応募があったのだ。
履歴書には高校卒業と同時に自衛隊に入隊し、任期が終わった後は地元で派遣として働いていたことが書かれていた。
単順に若いし自衛隊努めで体も強い、まだ正社員として働きたいという向上心も残っている。
ウチに応募してくる中では絶対に入社してほしい人材だったので、僕は各所と調整しすぐに職場見学のスケジュールを決めた。
地方からの応募者向けの職場見学は泊りがけとなる。
寮を見に行ったり、各部門を数日にわたって見学または体験してもらうような流れだ。
もちろん地方からの往復交通費や宿泊費用はウチ持ち。
毎日車での送迎付きという VIP待遇 である。
待ちに待った当日、僕は東京駅までTくんをピックアップしに行った。
実際に会ってみるとなんとも温厚そうなタイプであった。
想像よりもおとなしく物腰やわらかで、ともすれば28歳にして幼さが残るというか…
元自衛隊ってのは本当か?
面接で「自衛隊で何を学んできましたか?」と聞いたらよかった。
まあ接しづらいわけでもないし特段問題にはならないので別にいいけれど。
「パワー系の現場で生き残れるだろうか?」と若干の不安を胸に抱きつつ、その日の案内を続けた。
僕「疲れたでしょう、今日は寮を見学してもらったからもう終わりだよ」
T「はぁい。ありがとうございマス」
僕「明日の朝ホテルまで迎えに行くから。明日は1つめの部門を見学してもらうよ」
T「わかりました」
僕「明後日に2つめの部門を見て、ちょっと体験してもらったら終わりだから。それまでに帰りの新幹線チケットを用意しておくね!」
T「はぁい」
僕「夕食はホテルの近所にあるファミレスか、コンビニで買うと良いよ」
T「お金500円しかないのでコンビニでカップラーメンでも買います」
そんな所持金で大丈夫か?問題ないならいいけど。
車内でこんな説明をして、その日は寮の見学だけしてホテルに送り届けた。
翌日も無事に会社を案内することができた。
先輩方も気をまわしてくれて、Tくんに色んな方が話しかけてくれたし、本人も楽しそうだった。
その日の終わりに
「いまのところどう?雰囲気合いそうかな?」
と聞くと
「はい!皆さん優しくてよかったです」
と言ってくれた。
「合わなかったらやっぱりやめますでも良いからねー」
とあまりプレッシャーを与えないように努めつつ、これは採用まったなしと心の中でガッツポーズをしながらTくんをホテルに送り届けた。
翌朝、会社ケータイ(ガラケー)の通知ライトがちかちかと光っていることに気が付いた。
寝ぼけ眼でケータイを開くと、未読メッセージが1通。
ショートメッセージだ。
嫌な予感がした。
2:13 身内の不幸ごとがあったので地元に帰ります。いきなりですがすいません。
僕は思わず笑ってしまった。
うそこけ。
仮に本当に緊急で身内の不幸がその時間にあったとしても、2時過ぎにホテル飛び出してどうやって地元帰るんだよ。
タクシー?500円しか持ってないのに?
普通に翌朝僕に電話した上で普通に新幹線で帰ればいいのでは?
本人に一応電話をしてみても勿論つながらない。
あと1泊を残したホテルに向かいフロントに話を聞くと
「昨日20時くらいに出かけたっきり帰ってませんね」とのこと。
メール入れた時間にはもう完全に帰宅ムーブ入ってたよね?
すぐメールしたら鬼電きてスマホ触れなくなると思って、寝る寸前にメッセージ送って電源切ったんだよね?
途中終了なんてことは珍しくもないが、ホテルから脱走したケースは初めてだ。
なぜこのタイミングで…というかまだ帰りの新幹線のチケットも渡してないのに。
所持金500円ぽっちでどこへ行ったのだろう。
最終日適当にやりすごして帰りのチケットだけは貰おう!とか思わなかったのだろうか。
よほど何かが嫌だったに違いない。それが僕でないとは言い切れない。
15,000円以上の交通費を蹴ってでも、誰にも何も言わず帰りたい何かがあったのだろう。
今となっては叶わないが、やっぱり彼に「自衛隊で何を学んできましたか?」と聞いてみたい。
そのときは「どんな時でも自分の意思を貫くことと、卓越した行動力です」とでも答えてくれるだろうか。
あとでちゃんとママに夜行バス代返せよ。

永遠のゼロ Mさん
ウチは入社して間もない間は日払いで給与が振り込まれる。
何故かというと、半数以上の応募者がほぼ無一文だからである。
仕事は辞めたが生活保護を受けるほどではない。
そんな人が求人紙を握りしめて公衆電話から応募してくる。
ウチはそんな企業だ。
とはいえ決してブラック企業ではないように思う。
ちゃんと法令順守はしているし、仕事が肌に合うならばそれなりに長く稼げる。
まあでも肉体労働だし、業種的にも学歴を必要としない為「そういう層」からの応募が集まりやすいのは事実だ。
今回入社してくれたMさんは北関東出身の元派遣。
20代から職を転々としており、つい最近までは派遣として工場勤務を中心に色々やっていたようだ。
退職に伴って住んでいた派遣寮を追い出され、ホテル暮らしをしていたらしい。
例によって入社時の所持金はほぼゼロ。
話しかけやすいムンクの叫びみたいなルックスをしていて、目が大きく開いていて歳の割に顔が幼い50歳だった。
ウチに応募してくる人の中ではコミュニケーション力は高くわりとまともな印象で、聞いてもいないのに袋麺の美味しい煮込み方とかをペラペラ話してくるような気さくな方だった。
そんなMさんが入社して10日が経った頃、Mさんは突如無断欠勤をした。
現場の責任者からその話を聞いているときに、事務所に一本の連絡が入った。
電話の相手は、退職代行だ。
退職代行とは、会社に退職を言い出しにくい人や、激しい引き止めに合っている人の代わりに勤め先へ「辞めます」と言ってくれるサービスである。(超略)
その存在は知っていたが、初めて実際に使うケースを見た。というか使われた。
事務所の皆さんはポカーンとしている。
ネットで相場を調べてみると、弁護士資格を持たない業者で3万円程度らしい。
言ってくれれば普通に辞めさせたのに。
引き止めなんてしないよ?
Mさんはほぼ無一文でウチに転がり込み、日々支払われる給与をコツコツ貯め、退職代行の料金を捻出したのだ。
よほど自分の口で退職を伝えることが難しかったのだろう。
「辞めます」と伝えるそのために3万円払ってしまうくらいだから。
結局退職代行は辞める意思を伝えるだけで、それ以上は介入してこなかった。
恐らく弁護士資格を有しない業者だったのだろう。
寮の立ち退きの際に自分が立ち会うしかないMさんは、すごく気まずそうにしていた。
立ち会いで顔を合わせるって想像してなかったのか?
弁護士資格持ってる業者に頼んだら代行してもらえたかもね。
寮の引き渡しが終わり、鍵を受け取るときMさんにこう聞いた。
「この先、住まいはどうするんですか?」
するとMさんは
「お金は全然無いんですけど…なんと寮付きの派遣が決まったんですよ!」
と、少年のようなキラッキラした顔で答えた。
なんかわからんがマトモじゃねえ、と思った。

コンプレックスヤクザ Sさん
東北から職場見学に来ることになっていたSさん。
僕は東京駅の新幹線ホームでSさんの到着を待っていた。
なぜわざわざ新幹線の到着駅まで迎えに来ているのかというと、地方からくる求職者の大半が時間通りにウチの会社にきてくれないからだ。
なぜ入場券を買ってホームにまで来ているのかというと、指定の場所で落ち合うのは難しいからだ。
もっとも、普通はそんなことないと思うけど。
ウチの会社に応募してくる方々はアーティスティックな思考の持ち主が多いので、いつも思うように事が進まないのだ。
彼らにとって慣れない場所、しかも東京駅という難易度の高い駅のどこかで待ち合わせなんてできない。
ふらふらと好き勝手移動し、電話しても現在地も説明できず、改札で待ち合わせたのに合流まで30分かかったなんてこともあった。
だから事前に「新幹線を降りたらホームから一切動かないで待っててください」と伝えるようにしている。
僕も地方出身の田舎者なので、正直未だ東京駅で迷うことがあるから、ホームで待ち合わせというのは最も成功率の高い(100%ではない)合流方法だった。
それでも勝手に改札を出てしまい、電話で「いま八重洲口ってとこにいますけど、そっちはどこですか?」とかトチ狂ったことを言ってくる強者もいるからタチが悪い。
予定の新幹線が到着し、ぞくぞくと人が降りてくる。
人混みが無くなったころ、僕はSさんに電話をかける。
僕「いまどの辺ですか?」
S「ホームにある…えーと、キオスクのすぐ前です」
よちよち歩きで改札を出ていないことにまずは安堵する。
それっぽい方に目をやると確かにいる。
電話をかけている人が。
おそるおそる近づいて声をかけてみると、やっぱりSさんだった。
僕は改めてSさんの風体を確認した後、心の中で「うわぁ、マジかよ…」そう思った。
Sさん 40歳
体型 やせ型 170cmくらい
髪型 オールバックにポマードべったり
服装 太いストライプのスーツに真紅の開襟シャツ
真っ黒なでかいサングラス とがった革靴
持物 でっかいキャリーケース
印象 誰がどうみても田舎者
一目みて「Vシネチンピラの子分D」と思った。
事前に電話したとき、私服で良いですと伝えていたはずだけれど…
まあ良い。見た目は別に問題じゃない。
でも一緒に歩くのは子分Eになった気がしてすごく恥ずかしかった。
それでも僕は笑顔でたわいもない話をしながらSさんと駐車場に向かった。
車を走らせ、首都高で職場へと向かう道中に明日からのスケジュールや仕事の内容などの話をした。
やがて必要事項を伝え終わり、話すことが無くなって車内は静寂に包まれていた。
「寝ててもいいですよー」と言ってみたものの、Sさんはまだ話がしたいのかおもむろに口を開いた。
S「俺ァ、昔から 強 面 って言われてきてサ、よく絡まれたりしてきたんだげどもヨ、顔ぉ怖ぐ見える?」
僕「そうなんですか?僕はそう思わないですけどねー」
なんの話?と思ったが、なるべく間を置かないように答えた。
Sさんの見た目は先述したとおりチンピラの雑魚子分みたいな痛々しい感じだ。
垢ぬけないまま大人になったような、深みも色気もない40代。
どちらかというと童顔…?まであるが、もう20年くらい経ったらワンカップが似合いそうでもある。
Sさんは続ける
S「昔バイクで北海道一周したんだけどもサ、無免許でヨ…」
僕「へえー(なんだコイツ」
S「仕事辞めたあと貯金100万円くらいあったけどもサ、女遊びに全部使った」
僕「すごいっすねー」
その後も酒めっちゃ強いですアピールとか、昔は喧嘩してましたアピールとかがしばらく続いた。
当たり障りの無い返事を繰り返しているうちに、ふと思うことがあった。
もしかして…田舎コンプレックスが丸出し?
必死で舐められないようにしてる…?
チンピラ崩れみたいなスーツも、安っぽいサングラスも、恥ずかしいアピール話も…
なんだか逆に可愛く見えてきた。
もう本当におのぼりさんMAXのオーラが出ていたのだ。
それが修学旅行にきた中学生ならまだしも、40歳にもなってイキっているのだ。
必死に、ただ田舎者と舐められたくないから。
どこで買ったかわからないアイテムを装備して、聞かれていないやんちゃ話もしちゃう。
翌日、Sさんはサングラスをしたまま弊社の代表へ挨拶をした。
僕は事前に「サングラスだけ外してください」と言いはしたが「度入りなんで(怒」とのことだった。
代表の口元は心なしか歪んでいた。
結局その後、たくさんの先輩社員が気をつかって話しかけにいくも、終始アウトローを気取っている様子のSさんはひとりハードボイルドなまま。
強面パワー系のガチ勢に気おされたのだろうか、もしくは標準語でないのが恥ずかしいのか、「っス…」くらいしか言えないまま全日程が終わった。
単純にシャイなだけだと思われた。
Sさんが入社することは無かった。
恐らく今頃「都会の人は冷たい」とか田舎コンプ丸出しなこと考えてるんじゃないかなと思う。
僕も田舎者なのでわからなくもない。
Sさん、無理して上京しなくてよかったです。
都会に対するギャップとかコンプレックスみたいなものって、大体18歳とかで上京したり新しい友達に出会って消滅するんです。
あなたはもう遅いから、ありのままの姿に戻って地元を愛してやってください。
